学会・研究公開: 2026-08-12
白内障手術後の点眼をなくせるか——「ドロップレス術後管理」の現状と課題
白内障手術を受けると、その後しばらく感染と炎症を抑えるための目薬を続けるのが一般的です。 しかし高齢の方や手の力が弱い方には点眼そのものが負担で、 決められた回数を守れないこともあります。 医学誌 Eye に、術後の点眼を手術中の眼内投与に置き換える 「ドロップレス(DACS: Dropless After Cataract Surgery)」という考え方について、 これまでのエビデンスと課題を整理した総説が掲載されました。
発表の要点
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点眼をやめるのではなく、投与のタイミングを変える発想
ドロップレスは薬を使わないという意味ではありません。手術中に、目の中(前房)へ抗菌薬を直接注入したり、ゆっくり薬が溶け出す徐放性のステロイド製剤を留置したりすることで、術後に自分で点眼する必要をなくす、あるいは減らす方法です。薬の効果を確保しつつ、点眼という手間を手術室側に移すという整理になります。 - 2
抗菌薬の前房内投与は感染症の抑制効果が積み重ねられてきた
総説によると、手術中に抗菌薬を前房内へ投与する方法については、過去数十年にわたる複数の研究で術後の眼内炎(重い感染症)の発生率を下げる効果が示されてきました。これにより、術後の抗菌薬点眼を省ける根拠が整いつつあるとされています。 - 3
徐放性ステロイドは効果は示されたが普及は限定的
術後の炎症を抑える徐放性ステロイド製剤についても、従来の点眼と同程度に炎症をコントロールできることが示されてきました。ただし著者らは、実際の導入は今のところ限られていると指摘しています。 - 4
患者の負担・費用・医療廃棄物という3つの利点
総説が挙げる利点は、点眼を続ける負担が減って生活の質が上がりうること、医療費を抑えられる可能性があること、そして使い捨ての点眼容器などの医療廃棄物を減らせることの3点です。一方で普及には、承認や保険適用といった制度面の壁を解消する必要があるとしています。
背景・コンテキスト
白内障手術後は、感染を防ぐための抗菌薬の目薬と、 炎症を抑えるためのステロイドや非ステロイド性抗炎症薬の目薬を、 通常は数週間にわたって使います。 回数や期間は医療機関の方針や眼の状態によって異なりますが、 1日数回を1か月近く続けるケースもあります。
この期間、点眼を指示どおり続けられるかは人によって差があります。 容器をうまく持てない、目に入ったか分からない、 本数と時間を管理しきれないといった理由で、 実際の使用が予定どおりにならないことは以前から知られていました。 ドロップレスはこの「守れるかどうか」という不確実さを、 手術中の処置に置き換えて減らそうという発想です。
患者にとっての意味
現時点でドロップレスは、どの医療機関でも選べる標準的な方法ではありません。 日本で使える薬剤や算定の扱いは限られており、術後の点眼は今も回復に欠かせない大切な手順です。点眼が難しいと感じている方は、自己判断で中断するのではなく、 容器を押しやすくする補助具や点眼のタイミングの工夫について、 手術前に担当医や看護師へ相談しておくことをおすすめします。