白内障ナビ
学会・研究公開: 2026-08-12

溶接作業と白内障リスク——9研究のメタ解析が示した「保護具の差」

金属の溶接では、水晶体に影響を及ぼす波長の紫外線が発生します。 溶接作業と白内障の関係はこれまでも調べられてきましたが、 研究によって結果が一致していませんでした。 医学誌 Acta Ophthalmologica に、 過去の疫学研究を統合してこの関係を検証したシステマティックレビューとメタ解析が掲載されました。

発表の要点

  1. 1

    9研究・溶接作業者5,165人を統合

    7つの文献データベースを検索し、溶接作業者と対照群で年齢を調整した白内障の発生を比較した研究を選定しました。対象となったのは9研究で、溶接作業者5,165人と対照513,026人が含まれます。統合にはランダム効果モデルが用いられました。
  2. 2

    高所得国では有意差なし、低中所得国では約3倍

    国・地域の所得水準で層別化すると、高所得国を対象とした研究(3件)では白内障のオッズ比が1.22(95%信頼区間0.79〜1.90、p=0.374)で統計学的な有意差はありませんでした。一方、低中所得国を対象とした解析ではオッズ比2.95(同1.68〜5.19、p=0.00017)と有意に高い結果でした。研究間のばらつきはかなり大きいと報告されています。
  3. 3

    差の背景として労働安全対策が挙げられている

    著者らは、この差が労働安全対策の順守度や研究手法の違いを反映している可能性を指摘しています。加えて、日常的に浴びる太陽紫外線の累積量が影響を修飾している可能性にも言及しています。つまり、溶接そのものより「どれだけ守られているか」が結果を左右しうるという読み方になります。
  4. 4

    因果関係の証拠はまだ限定的

    研究間のばらつきが大きく、リスクを高く見積もる研究が採用されやすい出版バイアスの可能性も認められました。著者らは、溶接由来の紫外線と白内障の因果関係は生物学的にはあり得るものの、疫学的な証拠はなお限られており、集団ごとのリスクを正確に定量するにはさらなる研究が必要だと結論づけています。

背景・コンテキスト

白内障は加齢によって誰にでも起こりうる変化ですが、 紫外線を長年浴び続けることが進行に関わる要因のひとつとして知られています。 溶接のアーク光には強い紫外線が含まれ、 短時間の曝露でも角膜に炎症(電気溶接性眼炎、いわゆる「電気目」)を起こすことがあります。

日本では、溶接作業時の遮光保護具の使用が労働安全衛生の枠組みで定められています。 今回の解析で高所得国と低中所得国の結果が分かれたことは、 こうした保護具の運用が実際に意味を持つ可能性を示すものとして受け止められます。 ただし解析の対象は職業曝露であり、 一般的な屋外での紫外線対策をそのまま論じたものではありません。

患者にとっての意味

溶接や、強い光を扱う作業に日常的に従事している方は、遮光面や保護めがねを規定どおりに使うことが基本的な対策になります。屋外作業が多い方は、つばのある帽子や紫外線カットのめがねを併用することも紫外線対策として役立ちます。 白内障は進行しても痛みが出ないため気づきにくく、 かすみやまぶしさを感じるようになってから受診するケースが少なくありません。 職業的に紫外線を浴びる機会が多い方は、 自覚症状がなくても定期的に眼科で確認しておくと変化を早く把握できます。

出典

関連記事